第10章 その後
楽しくもない会話が終わると部屋に静寂が訪れる。
今日は朝からドタバタの緊張感の中、言われるままにスケジュールをこなしてきたので、いざ静かな空間に身を置くと妙に違和感を感じリネルは話題を探してみる。
思えばイルミとは、特に何をするでもない時間を持つ事は初めてであるし 何を話したらいいのかがわからなかった。
頭で何か話題を、と考えていると イルミの方から声がする。
「リネル」
「え…」
イルミの方へ目を向けた。視線が噛み合うとほんの少し、ここまで共に駒を進めてこれた同志みたいな安心感がある。
例えば婚約中の男女であれば、こういう時にはどうするのか。きっと甘い展開なのだろうが なかなかすぐには難しいだろう。
リネルの考えを無視すべく、イルミは素早くソファから立ち上がると 部屋の入り口まで足を戻してしまう。
「明日は1人で帰って」
「え?……うん」
「オレはこれから仕事だから」
「あ、…そうなんだ…」
「また何かあれば連絡する」
「うん」
リネルはハッとする。ここへ来た道筋を思い出す。ソファから急ぎ立ち上がるとイルミに駆け寄り声をかけた。
「イルミ!」
「なに?」
「あの、言いたくないんだけど……」
「そう。じゃあ行くね」
「ちょっと!……ええと、私少し方向音痴っていうか……帰り道ちゃんとわかるかどうか…」
「何とかなるだろ。わからなければ使用人に聞いてよ」
イルミはそのまま部屋を去ってしまった。
「………ですよね〜」
イルミは不動の姿勢を崩さない、こんな関係になったというのにとにかく冷たいまま。もちろんわかっていたことなのだが。
リネル は1人になった部屋で大きく息をついた。とりあえず今のリネル必要なものはイルミをあてにする事よりも休息だ。今日の反省点を頭に浮かべつつシャワーを浴び、早々に大きなベッドに入った。