第75章 妊娠記録④おねだり
「イルミみたいな乱れもない育ち方も、私みたいに捨てられた子も、親が恨みを買ってしまったその子も…親が作った枠の中で 自分じゃどうする事も出来ないんだよ」
「確かにね。リネルが何を言いたいのかよくわからないけど」
「それでも私だったら、…人生の終わり方くらいは自分で選べたらなって思って」
「どういうこと?」
顔を上げ 暗闇で視線をぶつけ合う。
イルミには数刻前の行いに戸惑いも後悔も一切ないのだから、リネル自身が導き出した答えの肯定材料になる。こんな時はそれが有難くも思えた。
「死で救われることもあるのかなって」
「救われる?」
「うん。全員一緒に殺されたから きっと天国でまた皆一緒になれたはず」
「そう言い方をされると人助けでもした気分になるね」
イルミは静かに立ち上がる。そのままバスルームの方へ足を進め 振り返りもせず言った。
「もう寝たら?」
「…うん」
素早く入浴を終えて部屋に戻るとそこにはまだリネルの姿がある。ソファに腰掛けゆったりした雰囲気の中、片手を口元に添え眠そうに欠伸を噛み殺していた。
華奢な首元や肩、スッと細い手首は相変わらずであるのに 腹だけが異様に大きい今の姿はどうにもバランスが悪く滑稽に感じられる。
何より気配そのものが弱く儚げに見えるのは ここしばらくリネルはハンターとしての仕事をしておらず、緊張感から開放された生活を送っているせいなのか。再び「眠いならば自室で寝ればいい」と促すと、本人は消えそうな笑みを浮かべながら意外な要求を出してきた。
「ねぇイルミ」
「なに」
「お願いがあるの」
「聞けるかは内容によるけど」
「イルミの念の針をちょうだい」
「針?」
「うん。なるべく強い念が込められてるのがいい。思考も自我も全てを強制遮断するような」