第75章 妊娠記録④おねだり
妊娠8ヶ月まで仕事をこなし、そこから先はいわゆる「産休」というものに入ることになった。どんどん大きくなるお腹を抱えて出来ることは限られてくるし、ハンター協会内でもここ最近はほぼデスクワークしかしていなかった。
今では妊娠9ヶ月である。
いくら体力自慢のハンターであるとはいえ 動きも生活も制限が益々多くなる。休みに入り やることがなくなってしまった今の状況から思い起こすと、雑務ばかりの仕事であってもそれが小さな気分転換になっていたと言えなくもなかった。
思い出せば幼い頃から、何かに打ち込み 何かを追い掛けてきたばかりの人生だった。故にリネルにとって、子供が産まれるまでのこの1ヶ月は余暇をどう扱ったらよいのかわからない空白の時間と言えた。
ひたすら読書をしてみたり、キキョウに付き合いお喋りをしてみたり、ミルキの部屋に押し入り慣れないゲームをしてみたり。
カルトの悪態に付き合ったり、ゼノの話し相手にさせられたり、使用人相手に産まれる子供のことを話してみたり。
しばらくは外の病院に通っていたし、今でも時々は1人で近場の街まで下りる事もある。ただお腹が大きくなればなる程 回りの監視や干渉が増えるのは当然で、時々はそれを疎ましく思う事もあった。
そんな時間の流れがゆっくりな毎日に飽きて来るのは早かった。
家に篭りがちな日々が続くと 最終的に働くのは頭の中だけで 色々な事を考える時間ばかりになってしまう。もしかしたら今までが多忙すぎて 自分と向き合うことが少な過ぎたのかもしれない、とも感じられた。
答えの難しい議題を探してはひたすら自問自答をし、自分なりの答えを探してみる。そんな自己満足に浸っていた。