第74章 妊娠記録③羽伸ばし
気配があったのでわかってはいた。それでもその顔を目の前に見せられると、リネルの表情はこれでもかと険しく固まっていた。
「久しぶり」
「…なんでいるの」
「自分の家なのにいるの悪い?」
「なんで私の部屋にいるの」
「さぁ?ツボネが余計な事して何故か仕事がなくなったからなんとなく」
ヒソカの言った事がぐるぐる頭を回る。冷たい目でジロリとイルミを睨んだ後、挨拶もなくイルミの前を通り過ぎた。
「リネル くじら島に行ってたって?」
「…だったらなに」
「別に。まぁ あんな田舎にこれといったリスクはないだろうけどさ、キルアを巻き込むのはやめてくれる?」
「うるさい。大体イルミはどうしていつも私を悪者にするの?キルアとゴンは友達なんだから遊びに行ったっておかしくない、知ってるくせに。そもそもイルミに関係ないでしょ」
顔も見ぬまま一息で強く言い捨てる。1度止めた足を再び進めた。
「リネル」
「……っ」
急に腕を掴まれる、後ろから普段よりも低くイルミの声が聞こえてきた。
「リネルじゃ少しも頼りにならないし 勝手なことしてもしもキルアに何かあったら責任取れるの?」
「…うるさいな離してよ!遊びに行っただけなんだからほっといてよ!」
「何が気に食わなくてヘソ曲げてるのか知らないけど そこにキルアを連れ込むのは筋違いだって言ってるの」
派手に振り返るとすぐに視線が絡みつく。冷めた目で見下してくるイルミを負けずと見返した。
「キルアキルアキルアって…うるさいんだよイルミは!!」
「どっちが。いちいち怒鳴らないと会話出来ないの?」
「私がどこで何しようが勝手でしょ!?それにイルミは自分はどうなの?!仕事だか何だか知らないけど平気でいつも家をあけてるし毎晩どこで誰と何してるワケ!!?」
「何の話?」
「別にイルミが…私のことなんてもうどうでもいいからイルミが誰と浮気しようが私に関係ないけど慰謝料と養育費は請求するから!こうなったら裁判起こしてでももう離婚する!!」
「いきなり何を言い出すの?」
「うるさい 浮気でも何でも勝手にしたらいいよ!!」
少しの動揺もなく首を傾げるイルミの仕草がリネルを苛立たせる。イルミは淡々と言葉を返して来た。