第74章 妊娠記録③羽伸ばし
そういう意味ではヒソカの言うことは一理ある。
ただ嫉妬云々というよりはイルミばかりが好き勝手にそんな事をしている思うだけでハラワタが煮えくり返り、全身の産毛が逆立つような感覚を覚える。自分でも目が据わるのがわかった。
「殺意が芽生える」
「ああぁ イルミが羨ましいよ」
「は?どこが」
「ボクもさぁ、……リネルに……」
「なに」
「本気で命を狙われてみたい♡」
こうしてはいられない。
肩をピクピク震わせニヤニヤするヒソカを冷めた目で一瞥し、その場を離れようとした。
ヒソカは少し腰を屈め、リネルに目線を合わせてくる。観察する風にじっと顔を覗かれた。
「…でも王子様のせいなのかな。オーラが弱いし前ほどキレを感じない」
「それは まぁ、自分でもわかってる」
「スリルや刺激のない世界に落ちると内側から腐っちゃうよ」
「……、」
「食べ頃を逃しておしまい」
極めて耳が痛い指摘である、つい口黙っていると急にヒソカにきつく顎を持ち上げられた。
「な、なにっ」
「んー、……」
ヒソカの顔が近づいてくる。この角度でヒソカを見上げるのは初めてではないし 過去に触れた事のある軽薄そうなカーブを描く唇につい視線が飛んだ。
少し目を泳がせていると ヒソカはあっさりリネルから手を引いた。
「イルミの気持ちもわかるなぁ」
「え?」
「さっきの殺気はなかなかゾクっときたけど…総合的に今のキミはつまらない」
「…つまらない…?」
「うん」
勝手に現れ、勝手に評価を下した後、気まぐれ過ぎる男は消えるようにリネルの前を去っていった。