第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「あ、わかったわ!その人がキルア君のお兄さんてワケね」
「え」
脳裏に似ても似つかない2人を浮かべ、何となくその間に自分を並べてみる。つい 自嘲気味に笑いながら言った。
「だったらドラマチックですけど。私含め誰もそういうキャラじゃないですし違いますよ」
「そうなの?現実ってそういうものなのかしら…」
「かもしれませんね」
「じゃあ ねえ。キルア君のお兄さんてどういう人なの?」
「えっ」
興味の目が向けられた。
最近ではイルミに言いたいことは色々あるが、認めざるを得ない点だけは今だに揺らいだことはない。それが、己の人生だと比喩した仕事に纏わる事なのだから 少し皮肉にも思う。
「……私って仕事人間なんですよ」
「なあに急に。でもハンター業は人生だって言っちゃうくらいだからそうなんでしょうね」
「あ~あ ビジネスパートナーとしては最高なんだけどなー」
「キルア君のお兄さん?」
「ええ」
ミトはすっかり氷の溶けた手元の酒を一気に飲み干し やや乱暴にグラスをテーブルに置いた。 そして度々リネルに探りの目を向けてきた。
「若い割に堅っ苦しいわねリネルちゃんは。もっとこう、あるでしょう?」
「何がですか?」
「プロポーズのエピソードとか出逢いの馴れ初めとか、新婚旅行や結婚式の話とか!」
「え」
「携帯に写真くらいあるでしょう?見せて?キルア君のお兄さん」
この手の話は至極苦手である、顔を苦めて首を左右に振りながら適当な返答を返した。
「ないですないです。何もないです」
「そんな筈ないでしょう!ねぇ その左手の指輪はどこでなんて言われてもらったの?」
「忘れました」
「まず写真見せなさいよ。キルア君の大人版て感じ?」
「ああ~見ない方がいいですよ。イルミはキルア程可愛くないと言うか、王道なカンジでは……」
「へぇ イルミ君て言うの」
「……。キルアの兄です」
「2人だけのあだ名とかあったりするの?イルミ君のこと普段はなんて呼んでるの?」
「キルアの兄」
「嘘つきなさいよ!」
あからさまにからかい半分のミトに リネルは眉を下げて見せた。