第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「意外と理屈っぽいのね… リネルちゃんて」
「え、そうですか?」
「でもそう言われると 私ってほんとにジンのこと何も知らないのよね。そもそも理解したいのかも出来るのかもわからないし…」
何やら悩んでしまうミトに、リネルは明るい声で告げた。
「フェアじゃないので言いますね」
「ん?」
「私にも居たんです。ずーっと見てた人…ううん、見て欲しかった人が」
「え」
ミトの目がこちらに向けられる。
こんな所に同じ気持ちを共有出来る相手がいようとは思ってもみなかったし、昔話をしようとも思っていなかった。それでもリネルの胸の内には絶対に忘れられない感情があるのは 紛れもない事実である。
「側に居たくていつも背中を追っかけて。なのに近付けば近付く程遠くに行っちゃうんですよね。だからまた追っかけて。
当時はなんでそうしてたのか自分でもはっきりわからなかったけど……今にして思えばそんなの好きだからに決まってるのに」
「リネルちゃん、…」
口に出すと意外にも感傷的になる。
ふと言葉が出なくなる。
しばしの静寂が訪れた。
落ちた雰囲気を戻そうかと 台詞を探していると、ミトが真剣な顔でリネルを覗き込んできた。
「まさかその人ってジンの事?」
「えっ」
「そうなの?」
「違いますよ!そんなの恐れ多いです…」
「そうなんだ」
どこかホッとしたようにも見えるミトを見ていると、つい顔が緩んでしまう。リネルはクスクス笑っていた。
「ミトさんて可愛いですね」
「やだ からかわないでよ」
「本心ですよ」
拗ねた様子で少し頬を赤くする風は、微笑ましいし愛らしい。ミトはハッとした顔で 再びリネルの顔を覗き込んできた。