第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「リネル」
「なに?」
「心配すんなよ」
「え」
「どうしても辛くなったら 逃げたくなったら、オレがなんとかしてやるから」
「キルア…」
隣に目を向ければ キルアは再び窓の外に真っ直ぐな視線を固めていた。その横顔が急に大人びて見え、つい返事をすることを忘れてしまう。
キルアは再び大きな溜息をつくと いつもの調子で話しかけてきた。
「でもどうすっかなー。イルミに似てたらオレ可愛がれねえかも」
「それは性格が?外見?」
「どっちも」
「そのへんは産まれてみないとわかんないけどね…」
苦笑いを口元に浮かべた後、リネルはキルアにころっと笑顔を向け明るい声色で言った。
「ねぇ。キルアは男の子と女の子 どっちがいい?」
「あ?」
「レオリオは根拠もなく絶対女の子だって言い張るんだよね。ゼノお爺ちゃんは最初のひ孫はやっぱり男の子がいいって言ってたけど」
「じゃあ リネルは?」
「え?」
「リネルはどっちがいいんだよ。男と女」
「私は……」
正直な所、具体的には真剣に考えた事がない。
ただ過去に 珍しくも会話の流れでイルミとそんな話をした事を思い出していた。
「ありがちだけど。元気に産まれてくれたらどっちでもいいかなって思う」
「ホントありがちだな」
「でも前はいざそういうことになったら イルミ似の女の子がいいと思ってた時期もある」
「はあ?!」
キルアは思い切り怪訝そうな顔をし、リネルを見た。
表情がパターン化されている兄に似ている上に女の子、想像するだけで可愛さの欠片もないと思う。にこやかに笑っているリネルについ毒づいた。
「それは最悪のパターンだろ」
「え、そこまで言う?」
「オレはリネル似の男を推す」
「わかった。念じておくね」
リネルは無意味に するするお腹を撫でた。