第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「…………イルミはなんて言ってる?」
「え?」
「その子供を、どう育てるか とか」
依然として顔を背けたままのキルアを盗み見た。キルアの胸中は何となくわかる気もするが 答えられるのは実際の所 キルアにとっての模範解答ではない。リネルは 声のトーンを落として返答をした。
「正直そこまでは話してない。中々ゆっくり話す機会もないし意気投合して話せるとも思えないし」
「そっか」
「ある程度の教育や教えは仕方ないとは思ってるけどね、この家にいる以上は」
「………」
「キキョウママやゼノお爺ちゃんはやっぱり その辺期待してるみたいだし」
「………」
黙り込んでしまうキルアに 正直すぎる回答を投げてしまったかと少し反省をした。
今となっては 揉め事を起こしてまで1人で逆らう気はないが、限度や歯止めだけはコントロールする必要はある。これがリネルの見解であった。
キルアに素朴な疑問を投げてみた。
「…きっとキルアは小さい頃から色んな技術を散々仕込まれて来たんだろうけど」
「ああ」
「暗殺やるのは昔から絶対に嫌だった?」
「どういう意味?」
「ええと、全部が全部何もかも強制的にやらされてたのかなって思って…例えばゼノお爺ちゃんは私に時々戦闘訓練つけてくれるけど それはハンターやる上でも凄く役に立ってるし…」
キルアは再び黙ってしまう。
リネルも無言のままでいると、大きな溜息の後 静かな声が聞こえてきた。
「はあ…そういう意味では半々かもしんね。それで命救われたこともあっただろうし」
「そっか」
「為になる事だけ教えてくれりゃいいのによー」
「確かにね…」
訪れる無言の折、なんと言うかを考える。
この手の話は突き詰めるときっと折り合いをつけることが難しい、暗黙の了解と言えるのか キルアにもそれは伝わっている気がした。