第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「ご友人のご家庭にお世話になるのに 手土産の一つも持たずに伺うおつもりですか」
「え…、」
「ご持参下さい。」
紙袋に入った土産物を渡された。意外にも、見た目よりもずっしり重かった。リネルはぽかんとした顔でツボネを見上げていた。
「これ…」
「ご先方にどうぞよろしくお伝え下さいませ。」
ツボネは早朝とは思えぬ程にテキパキした口調で 話しだした。その表情はどこかにこやかにも見えていた。
「家に閉じこもるよりは外の空気をお吸いになられる事はお子様の為にも大変いいことではございます。気分の転換も大切ですので どうぞ満喫なさってきて下さい」
「ツボネさん…」
「ただし決してご無理はなさらないようにお約束下さいませ」
「ええ。わかってます、…ありがとうございます!」
「ただ、ゾルディック家のお孫様を身籠られた身故に さすがにお一人で遠い地まで向かわせる訳には参りません。供は付けさせて頂きますのでご了承を」
「え、お供…って…?」
「行ってらっしゃいませ」
眉を寄せるリネルの質問には答えずに ツボネは深く頭を下げる。
この玄人使用人のする計らいには何となく予感がついた、リネルもツボネに対してぺこっとお辞儀を返した。
「ツボネさん ありがとうございます」
「礼などご不要。門の外でキルア様がお待ちです、あまり待たせぬように」
「キルア…ね。やっぱり」
「何か不都合でも?」
「…いえ。最高のお供です。行ってきます!」
再びツボネに深く頭を下げた後、リネルは屋敷を後にした。