第74章 妊娠記録③羽伸ばし
眠って起きればすぐに翌朝となる。
昨晩帰宅してから急ぎ簡単な荷造りを済ませ、ゴンと連絡を取りキルアも誘うことに成功した。
急遽決まった予定であるし 時間も早朝、なるべく音を出さぬようにしながら リネルは屋敷の入り口まで足を進めた。扉を開ければ 外はまだ朝露が残り冷んやりしている、静かに足を踏み出すと 後ろから声を掛けられた。
「リネル様 どちらへ行かれるおつもりで?」
「…ツボネさん…、」
さすがはこの家の古株使用人、一切の気配もなく近づいていたツボネにリネルはきまづそうな顔を向けた。やたらと厳しいツボネに外出を禁じられてしまっては折角の予定が水の泡になってしまう、グッと眉を寄せながら言い訳を考えた。
「あの、ええと…」
「全く ご自身からの相談すらないのですか。ご妊娠中の身でありながら勝手な行動は控えて頂かないと」
「いえ、だって。言うと、…ほら」
「ゾルディック家の名を背負うならば良識はお持ち下さいと日頃からも申しておりましょう」
「や、えっと…」
「お仕事ばかりがご立派であってもその辺りの認識が随分甘いご様子で。再三述べてはおりますが もう少し世間体なるものをお勉強なさってはいかがですか」
「………、」
きっと勘違いではない、ツボネはやたらリネルに厳しいと思う。
事あるごとに、このような小言を言われる度 リネルの中にはツボネに対する苦手意識が蓄積していた。言い訳を言うより早く しゅんと肩を丸め、くどくどした説教を諦めモードで聞いていた。
「……その、外出、やっぱりダメなんですか?」
「おや。リネル様 今までアタクシの話の何を聞いていらっしゃったんですか」
話の隙をつきぽつりと言うと ツボネは大きな溜息の後 呆れた声で言った。