第74章 妊娠記録③羽伸ばし
昼間、ジンと話した影響もあるかもしれないが あのゴンを育てたと言う人物やゴンが生まれた島を見てみたいと思う。
興味がわけば行動は早いのがハンターである、妊娠中の身だが そう動ける事が我ながら嬉しくもなる。待ち合わせの場所と時間を決めた後 プツンと電話を切った。
リネルは 車の後部座席に深く背を預け目元を緩める、久しぶりにゆっくり羽を伸ばしリフレッシュ出来そうな予感がした。
「くじら島、でございますか」
「はい。ええと 友人と一緒にちょっと出掛けて来ます」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
バックミラー越しに使用人と目があう、運転席からは静かな声が飛んできた。
「大切なお子様を宿されたお身体での遠出など イルミ様がご心配なさるのではありませんか?」
「んー、そんなことないと思いますけどね」
「まさか黙ってお出掛けになられるおつもりで?」
「え?う~ん。…」
「聞いてしまった以上見過ごしは出来ませんからね。ツボネ先生には報告させて頂きます」
「ええ?!ツボネさんに?!」
やたらと厳しいイメージしかない使用人を牛耳る老婆の顔が浮かぶ。何もよからぬことをしに行く訳でもないのに根掘り葉掘り詮索されるのは正直面倒の一言に尽きる。
リネルは運転席に身を乗り出し、弱い声を出した。
「何か言われちゃうと大変なのでツボネさんには内緒にしといて下さいよ…」
「そうはまいりません」
「そこを何とか…」
「大丈夫ですよ。先生はリネル様に目をかけていらっしゃいますから 悪いように計らいはいたしません」
「…それがなんか怖いんじゃないですか…」
リネルは頭を運転席の後ろに預けて、諦めた声を出した。