第74章 妊娠記録③羽伸ばし
任された役回りを必要以上にこなした後、ジンはあっという間にハンター協会本部を去って行った。数々の厳しい指摘を残し 膨大な量の既存書類やデータをぐちゃぐちゃにひっくり返され、それ等の片付けや整理だけでリネルの1日は丸潰れになってしまった。
「はあ…しゅ~りょ~!!」
「リネルさん ご苦労様でした。」
「ええ…ほんと容赦ないですねジンさんは」
「全くですねぇ。でもまあ広い目で見ればジンさんは我々と同じハンター界の人間です。今後何らかの理由で第三者機関に調べられる事になるよりは内部に近い人間に洗っておいてもらった方が都合がいいケースもありますから」
「…え」
含みを持たせて言うパリストンに リネルは瞳を丸めて見せた。
「……つまり、今回の件ジンさんに整理させたってことですか?」
それには答えず パリストンは満足気にネクタイを撫でていた。彼の手の内は読めるようで 結局の所リネルにはまだまだ到底読み切れないのだと知らされる、つい肩を落としてしまう。
「どうせやるならば徹底的にやって下さる方のほうがいい。ジンさんに依頼したのは 僕の差し金だったって事バレてたみたいで去り際に嫌味言われちゃいましたけどね。“妊婦さんを後始末にこき使うな”って」
「……。これだけ引っ掻き回されれば片付けや再整理は全部私の仕事になりますもんね」
「万が一リネルさんの産休中に外部からの調査があり 本当にマズいケースになれば協会の存続が危うくなるかもしれませんしね。出来ることは出来るうちにやっておかなくては。ね?」
自身のシナリオを見事に操るパリストンには賞賛と少しの呆れを抱き 溜息が出る。ようやく後片付けの目処が立つ頃には深夜が近い時間になっているのに、疲れを見せず爽やかな顔をしているパリストンに リネルは疲れた笑みを返した。