第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「アイツは叔母に育てられたんだ」
「ええと、確か…ミトさん でしたっけ。」
「知ってんのか?」
「お名前だけ。以前ゴンにお聞きしました」
「自分勝手なオレのガキなのに きちんと育てられればあんだけでかく育つんだ、いい事例だろ?」
「……」
「嫁ぎ先は暗殺一家だったか?物騒なことやってても信念持って育ててやりゃちゃんと育つんじゃねえのか?」
「…信念…」
「それがオメーの役目なんだろ?」
ジンの瞳と言葉はとても真っ直ぐで、それはリネルもよく知るゴンとどこか似ている気もした。
リネルは口元をゆるりと曲げてジンに礼を述べた。
「ありがございます。励まされました」
「ま、それでも血ってのは争えねぇもんだからな」
「え」
「ゴンは面も知らねぇオレの後追ってハンターになったろ。リネルのガキは殺し屋かハンターか、どっちに転ぶだろうな?」
リネルはパチりとまばたきをした。
ジンは面白がるように言うが その言葉がリネルに明るい感情を芽生えさせていた。
洗脳教育を行なうゾルディック家のやり方を見ていると その筋へ進むのは半ば仕方ないのかと腹を括ってはいた。だが 自分の後を追いかけてくる可能性もゼロではないとすれば 未来を想像するのが楽しくもなる。
一般的な親子とは言い難いが ゴンはジンを尊敬しているし、ジンもゴンの事を理解し評価はしている。一見希薄に見える親子関係だが、これはこれで 両者ハンターであるからこそ成り立つものだとも思える。
ジンは リネルの胸中に同調するかのように 視線をそらせてから話し出した。
「オレはゴンがハンターになった事も オレに会いに来た事も、悪くはねぇと思ってる」
「…いいですねそういうの。なんだかジンさんが父親っぽく見えてきました」
「気のせいだろ」
ふいっと顔をそらせ ジンはリネルの机から腰を上げた。リネルはジンの背中に向かって 嬉しそうな声で言った。
「結構親バカだったんですね」
「…本人には言うんじゃねぇぞ」
「え~ ゴン喜ぶと思いますけど」
「言ったらアレだ シメる!」
「シメるって…子供っぽいな…」
「うるせぇぞ」
ジンはそのまま立ち去った。