第74章 妊娠記録③羽伸ばし
ジンははっきりそう告げた後、リネルの机に浅く腰掛けてきた。座ったままジンを見上げながら 面差しのよく似る人物の笑顔を思い出していた。
ジンはハンターとしては優秀の二文字に過ぎるが 根無し草同然のその生き様は父親としてはどうだろうと勝手に評価をしてみる。少し遠慮がちに 言葉を選びながら話し掛けてみた。
「男と女は違うのかな?それとも生き方の違いかな?間違ってたらごめんなさい。…ジンさんはその、……親であるよりもハンターとして生きているように見えるから。…ええと…」
「構わねぇよ。その通りだしな」
「その…。…後悔ってありませんでしたか?」
真剣な顔で聞く。少しの間を持った後 ジンはふっと笑って答えを返してきた。
「ねぇよ。過ぎたことは全て結果論になるけどな。何を一丁前に悩んでんのか知らねぇけど出来た以上は成るようにしかならねぇし それをいちいち嘆いてちゃ先に進めねぇしな」
ジンの言うことは正論であるが、まだ結果を伴わないリネルにとっては現段階では解釈が難しい。
黙っていると やや矛先がズレた話題が飛んできた。
「リネル オメーの目にゴンはどう映る?」
「え?どうって…」
知る限りプラスの印象しかない。思い当たることを口にする。
「明るくて、真面目で、努力家で。素直で、友達思いで、優しくて。後先考えない危なっかしい所もあるけど、私が夫婦喧嘩した時も本気で心配してくれたし。ハンターとしても才能があって、将来有望で、人望もあって…」
まだまだ沢山ある気がする。ここへ就職して以来、ハンター試験官の任を請け負ってからは様々な人間を見てきたが ゴンの存在は一際目立っていたのは事実だった。
「そんなもんなんだよ」
「え」
「オレのガキとは思えねぇだろ?」
「そうですね」
「ハッキリ言うんじゃねぇ」
コンと頭を小突かれた。それが想像外に力が強く つい顔をしかめて見せた。