第74章 妊娠記録③羽伸ばし
「話そらそうったってムダだぞ。じゃ始めるか。」
「はあ…やりにくいな。さすがにジンさんはこんな手には引っかからないか」
「当然だろ。小娘の不倫事情にゃ興味ねえしな」
「一応言っておきますが してませんからね」
一方的にダシにされた上に興味なし宣告を受ける始末、上司と大先輩を前にして リネルは小さな溜息を漏らした。
不正や法令違反が行われていないかをチェックする監査員という面倒な役回りをジンが買って出るのは意外であったが、聞けば「仲間たっての頼みで人助けの一環だ」と溜息をつきながら言っており その理由は彼らしくもあり納得も出来た。
役割を担った以上は徹底していて 借金の取り立ての如くパリストンに厳しいツッコミを入れるジンを横目に見ながら リネルは少しヒヤヒヤしながらも残る仕事をこなしていた。
◆◆
「ほらよ」
「わ。ありがとうございます」
「確かカフェインてのは妊娠中によくないんじゃねーのか?」
「…珈琲好きなんですよ。やめられなくて」
ジンに横から缶入りのジュースを投げられた。その目はデスクの上に置いた珈琲に向いていた。
確かにレオリオもそんなような事を言っていた気もする、ただ好きな物を抑制するのも何もかもを制限されるのもストレスが溜まる。そもそも毒に慣れた身体であるし、飲み過ぎているわけでもない。カフェインくらいが悪に作用するとも思えない。心の中で言い訳を繰り返しながら ジンを見上げた。
この業界では名高い人物で 数々の功績を持つハンターであるジンが そんな事を気にしてくれるのがリネルには少し意外であった。
「もし何かあったら後悔すんぞ。大人の意見は大人しく聞いとけ」
「私もう大人ですよ 前から言ってますが」
「一応はそうだったな。あのヒヨッコだったリネルが親になるんだもんな」
「…なりたいかと言われると正直微妙な所なんですが。今はもう吹っ切れましたけどね」
「オレと同じだな」