第74章 妊娠記録③羽伸ばし
身体の変化をゆっくり実感している暇はあるようで 少なく、気付けば妊娠6ヶ月目を迎えていた。
無事安定期にまで入り、お腹もややふっくらしてきた。元より比較的細やかな体型のリネルなので その身体のラインの変化が少し悲しい反面 嬉しいような恥ずかしいような、鏡を見る度にホワンと神秘的な気持ちになっていた。
つわりが落ち着き食欲も戻れば精神的にも余裕が生まれてくるし、妊婦生活にも慣れてきた。やたらとキリキリ苛立っていた時期もあったが 今ではある程度の割り切りの元、前向きに考えながら日々の生活を送っていた。
パリストンの配慮で仕事も優遇してもらっているし ゾルディック家内でも特にキキョウやゼノはリネルのことを気遣ってくれていた。ただ妊娠中の身であるのに「生まれる前から耐性を」と、量を細く調整された毒を含む料理を出されることにはさすがに驚きもあったわけだが。
肝心要のイルミといえば 相変わらずで、リネルに対する気遣いをはじめ父親らしさはほぼ皆無と言えた。
これは気持ちに余裕が出てきてわかった事だが、良くも悪くも自身の見識を完全確立させているイルミはいかなる状況下に立とうとも ブレや迷いがない。今回の件についても単純にそれだけの事だとこじつけ リネルは自身の感情を丸く納めていた。
ただ現段階で 親らしくあるかと問われれば自分もイルミと大差はない。過去にクロロが言った 「男に感情を共有させることは難しい」との助言を胸に掲げ なるべく気にせぬよう日々を過していた。
一時期はイルミの一挙手一投足に苛々して堪らない時期もあったが 今では余計な会話や時間はなるべく共有しないように努めながら、お腹の中ですくすく育ってゆく小さな我が子を見守る毎日だった。