第73章 妊娠記録②事実報告
「リネル」
名前を呼ばれるが それを無視したまま、固く目を閉じ背を丸めていた。
「リネルってば」
ふと、後ろから身体を抱き締められる。
その展開はあまりにも意外で一瞬目を大きくした。
「仲直りしようか」
耳元でそう言われると同時に 腹部に触れていた手がするりと脇腹から腰のラインを辿る。耳に唇が触れた。
「な、何すんの!」
「だから仲直り」
余りにも意図が明確な行動に嫌気がさし 力任せにイルミの手首を掴んだ。第一に仲直りもなにも、何故リネルが怒っているのかを理解出来ていないイルミにそんなことを言う資格はないと思う。
「やめてっ 触らないで」
「どうして?妊娠中って出来ないの?」
「体調悪いしそれどころじゃない。イルミとなんかしたくない」
「妊娠済みならその辺心配ないし、今なら思い切り出来るのに」
「……」
呆れて言葉も出なかった。身体をよじり イルミを振り払い、小さく背中を丸めた。
ベッドが少し浮く。すぐにそこから立ち退くイルミは リネルに向かって言った。
「そうやって拗ねるのはリネルの自由だけど。産むと決めたなら事実は変えようもないから さっさと現状を受け入れた方がいいよ」
「……」
「ま、それで気がすむなら意地張ってたらいいけど。言ってもどうせ聞かないだろうし」
「……」
「そんなの無駄な抵抗だけどね」
一度足を踏み入れた以上は足掻こうが無意味、ゾルディック家のレールから逃れる術はない。釘を刺すような冷たい言い方に リネルは顔を歪めた。
言うだけ言うと、イルミはあっさりリネルの元を去る。
今日は、うるさく反論を返したり 何かを投げ付けたりする元気も残ってはいなかった。
fin