第1章 プロローグ
「あ、確認だけど結婚しても仕事は受けてくれるよね?」
「もちろん 仕事とは関係ないからね」
「そ。良かった なら安心」
「オレが結婚した所で何も変わらないんじゃない?」
イルミの悪戯な指先は リネルの寝着の襟元にかかっている。それをやんわり捕まえながら、リネルはにこりと笑って見せた。
「確かに何もかわらない。無駄にこういう時間を共有することがなくなるくらいかな」
「え、そうなの?」
「それはそうでしょ」
「例えば今日とか、リネルの存在結構助かってたんだけど」
「だってこんなコトしてるのイルミのママや未来の奥様にバレたら私殺されそうじゃん。ハイリスクすぎ」
「確かにね」
「私はまだ死にたくないもん」
リネルはまたも目を瞑る。
合図であったつもりは毛頭ないのだが イルミは上半身を起こし、リネルに覆い被さってくる。上から静かに落とされるのはこちらを試すような台詞ばかりだ。
「リネル 寝るの?」
「寝るよ。私明日も早いし」
「久しぶりに会ったのに?」
「別に会いたくて会ってるわけじゃないし」
「来たのは迷惑だった?」
「……いいから大人しく休んでね。明日はお見合いなんでしょ?夜更かしはお肌に悪いよ」
あやすように一度だけ、イルミの長い髪を一筋指先で遊ばせた。口頭でのはっきりしない拒否なんかでイルミが簡単に引くはずはない、それはわかった上だった。
イルミの掌は遠慮なしに、リネルの片胸を薄い布の上から包み込んでいる。
「……勝手に触らないでくれる?」
「リネル見てたら抱きたくなった」
「……私疲れてるの。重いしどいて」
イルミを無理やり押し退け、うつ伏せ状態になり身を固めた。
なにもセックスが嫌な訳ではない。ただ、明日は他の女の物になる為の大切な日だと言うのに平気で身体だけを求めてくるとは あまりにもデリカシーがないではないか。そこが少し鼻に触ったのだ。
「寝ててもいいよ。勝手に進めるから」
リネルの背中は再びイルミに覆われてしまう。耳元で挑発する言葉をかけてくるイルミは 洗ったばかりのリネルの髪を寄せ、現れる細い首に甘い吐息を纏わせる。乱れた寝着の裾にイルミの片手が易々と入り込み、脚をしっとり撫で上げられた。