第73章 妊娠記録②事実報告
ケンカ腰にも取れる台詞に苛立ち さっと目を開く。偉そうに腕を組んでいる姿がますますリネルの感に触れ 鋭くイルミを睨んだ。
イルミは口先で話しだした。
「産むと決めたなら1人でどうこうとかそういう次元の話じゃないよ」
「…は…?」
「生まれるまではいいとしてもそこから先はリネルの一存で自由には出来ないよってこと。わかる?」
他人事に振舞っていたかと思えば当然と言いたげに口を挟んでくる様が気に食わず、反論しようとソファから身体を起こした。
「…っ、」
貧血気味なのかくらんと目の前が気持ち悪く揺れる。起こした身体を力なくソファの背もたれに預けた。
まともに意見も出来ない体調の悪さに 悔しさでいっぱいになる。下を向き 震えそうになる声で言った。
「……出てって。イルミと話したくないし顔も見たくない」
「話が終われば出て行くよ」
「話なんかない。イルミといたくない」
「なら結論を言っておく。産むのはリネルだけど オレの血を引いている以上その子供はゾルディック家の所有物になる」
わかってはいたが。実にイルミらしいとも思った。人間としての権利や命の芽生えを喜ぶより前に 重んじるのは世襲や建前、ましてや自分の子供を物扱いする言い方には怒りがこみ上げてたまらなかった。
まだ生まれてすらいないのに先の人生は雁字搦めで他の選択肢は既に与えられていないのかと思うと、過去にこの家から逃れようと必死になっていたキルアの気持ちが痛いほどわかる気がした。
考えれば考えるほど感情がドロドロになる。ムカムカして仕方が無いし、視界がグラグラする。
「……出てって」
細い声でそう言う。力なくソファに身体を落とし 目の前を両手で覆った。
「…っ、なに」
「じっとしてなよ」
身体がふわりと浮く。抵抗しようにも身体が怠くそれすら面倒で 青白い顔のまま イルミを下から怪訝そうに見た。
イルミは平然としたまま リネルを寝室まで運ぶと、整えられたベッドの上に力ない身体を下ろした。
「ホントだらしないね、寝るならベッドで寝なよ」
「ほっといて」
「なに拗ねてるの?」
「うるさい。出てって」
目すら合わせたくない。イルミから顔をそらせたままベッドに身体を預けていた。