第73章 妊娠記録②事実報告
その後。
リネルは自室にて身体をダラリとソファに預けていた、微熱でもあるのか若干クラクラする。
今日の休日をフルに使い、病院にも行き 職場への報告も終えた。少しは前に進めた気もするが、反面、妊娠などしなければ休日を別のことに使えたのにと、この後に及んでまだそんな感情がある自分に 小さな溜息が出た。
瞳を閉じる。気だるい身体は重くベッドまで移動するのも面倒になってしまう。
「寝てるの?」
「……寝てたよ」
降ってくる声に目を開いた。妊娠のせいなのか寝起きはあまり気分がよくない。イルミの声に強制的に起こされた事に、つい眉間を寄せた。
このゾルディック家の人間は皆 恐ろしく気配断ちがうまい。ただそれを差し引いても ここまで近づかれているのに声を出されるまで気付かぬ程深く眠っていたのかと思うと、それは 自分の感覚の変化が原因かと負の感情が芽生え、イルミに当たりたくなってくる。喉元で声を止めていた。
「帰ってくるなり物凄い興奮ぶりだったんだけど。母さんに話したの?」
「うん…話しておくって言ったくせに」
「母さんなんか言ってた?」
「背骨折られるかと思った」
「何それ」
「……てっきりキキョウママは知ってるのかと思ってた」
「だってまだ産むか産まないのか決まってなかったし。言ったらああやって大騒ぎするのが目に見えるからね」
まだそんな論点で止まっているイルミに嫌気が指し、顔を見ぬまま瞳を閉じた。
悪足掻きはしていても最初から自分の中に答えはある、それをはっきり口にした。
「…イルミになんて言われても産むし私がちゃんと育てる。もう決めたの、そうする責任がある」
「オレ産むななんて言った覚えはないけど」
「協力とか支援とか期待もしない。1人で何とかするからいい」
「リネルわかってないね」