第73章 妊娠記録②事実報告
台風が去ったようにしんとする部屋の中、リネルはふうっと息をつく。
喜んでくれるのはありがたいが 結局の所はキキョウも自己都合、クロロの言うように 親身にリネルに寄り添ってくれるかと言えば少し違う。
下を向きながらそう思っていると カチャカチャと割られたカップを片付ける音が耳に届く。無意識にそこへ目を向けた。
使用人の柔らかい声が聞こえてきた。
「おめでとうございます」
「え…」
「主の喜ばしい事例、何よりゾルディック家にご家族が増えるのです。この家に仕える身としては心より御祝いを申し上げます」
「…ありがとう、ございます」
度々形式的に礼を言う。
それでもにこやかに顔を綻ばせている使用人の表情を見ていると ほんのり頬が熱くなる気がした。
仰々しい言葉と共に深く頭を下げてくれる使用人に向かって、顔を隠すように リネルも頭を下げた。