第73章 妊娠記録②事実報告
「キキョウさん」
「なにかしら?」
「聞いていいですか」
「ええ 」
「………その。この家に来て、…イルミを…」
「? イルミがなにか?」
「ええと、イルミを妊娠された時って どうでした?」
「 え 」
「不安とか迷いとか…そういったものってなかったんで
鋭く陶器が割れる音がした。
キキョウは手にしていたティーカップを思い切りテーブルに置く。それはソーサーごと見事に破壊され 中に残ったお茶が容赦無くその場に飛び散った。急に話を遮られた事に驚き リネルは頭を低くしキキョウの顔を伺った。
「…キキョウ…さん…?…」
キキョウは肩を震わせながらガタリと席を立つ。勢いのついたアンティーク調の重い椅子は派手に後ろにひっくり返っていた。
ツカツカと歩み寄ってくるキキョウはリネルの肩を両手で鷲掴み、顔を真っ直ぐに近づけて来る。目元の電光がいつになくチカチカと早く点滅していた。
「貴女 子供が欲しいの?」
「…はい?」
「そうなのね?!?!」
「えっ…?」
何やら会話が噛み合っていない気がするが、キキョウはお構い無しに早口で話を飛躍させていく。
「そうなのね?!リネルちゃん赤ちゃんが欲しいのね?!そうよね貴女がこの家に来てもう1年も経つしそろそろそういう時期よね。まあああヤダ気付いてあげられなくてごめんなさい!女からは直接は言いにくい事柄だものね。いいわ、大丈夫よ 任せなさいな。あの子にはよぉぉおく言い聞かせるしパパにもお義父様にもお仕事の都合を工面するようにきちんと言っておかなくちゃ!」
「あの、ちょっと待って下さい!」
「もうヤダ、だから最初の最初に部屋を別にするなんてよくないわって言ったのに貴女もイルミもまるで話を聞かないんだもの!今からでも遅くないから同室にしたらいいわ。大丈夫よ 心配しなくても、貴女まだ若いし可愛いしいくらでもチャンスはあるわよ!そうと決まれば早速……あら?イルミ!イルミ?!あの子ったら不在のようね 今日のスケジュールどうなってたかしら?」