第73章 妊娠記録②事実報告
行く当てもなくなり 帰路につく。
途中何度かクロロに連絡を入れ 安否を問うが、あっさり返信がある事に 安堵と尊敬と少しの恐怖を覚えた。
とぼとぼ歩き、今では我が家であるククルーマウンテンを無意味に見上げる。
せっかくレオリオに励まされ 前向きになれた気持ちが再び沈んだまま 重い門を1まで開け、苦手な犬を無視し 最短ルートで屋敷へ向かった。
気持ちの落とし所はわからないままだった。
「あらぁ リネルちゃん おかえりなさい」
「…ただいま帰りました」
屋敷入り口でキキョウに出くわす、わざわざの出迎えは珍しい。リネルはゴクリと息を飲んだ。
イルミに妊娠報告をした際、両親に話しておくと言っていた。仕事続きでゆっくりキキョウと顔を合わせることもなかったので その件について何やら言われるのではないかと予想し、目を泳がせていた。
「ねぇ。たまには女同士 仲良くお茶でもいかがかしら?」
「…ええ」
断ることも出来ずに返事をすれば キキョウは口元をふわっと緩めてリネルを部屋に招くことになる。
使用人の手により繊細なティーセットがカチャカチャと準備される中、キキョウは首を傾げながらリネルに問い掛けた。
「リネルちゃん 最近もお仕事忙しいのかしら?」
「そうですね…この時期は」
「貴女少し痩せたんじゃなくって?」
「ちょっと 食欲なくて…」
つわり、との言葉は出ないまま。言えばこの義理親の前でも 事実を自ら認める事になりそうでつい口を噤んでしまった。
「なんだか元気がないようね」
「………」
心配そうに話しかけてくるキキョウをちらりと見て、リネルはふと眉を上げた。
そういえば。
この義母は流星街の出身であると記憶している。それなのに単身この家に嫁ぎ何人も子供を生み育てた経験がある。意外にも大先輩はこんな所にいたことに小さな希望が見えて顔を上げた。相談に乗ってくれるかもしれないし、何より本件においては味方につけておきたい。
リネルは拳を握り、自分から話を切り出した。