第9章 お茶会
「リネルちゃんのお口に合うかしら?」
形のいい唇をニコリとさせたキキョウがリネルに話し掛けてくる。
すぐに視線を前に戻し 少しも飲む気になれないお茶を急いで口に運ぶ、舐める程度に紅茶を含んだ。
味や香りには特別変なところはない。ここまで来てしまったら先ほどイルミが言った「リネルなら体力的に大丈夫」との言葉を信じるしかなかった。
「はい。とっても美味しいです」
「よかったわ。リネルちゃんは甘い物はお好きかしら?よろしかったらたくさん食べて頂戴ね」
いらないとも言えず、リネルは綺麗に取り分けられたスイーツを口に運ぶ。
こちらも味におかしな所はなく、むしろ戦闘後の疲れた身体に柔らかく染み渡る上品な甘さだ。毒の事など忘れてしまいそうだった。
「ほほっ、懐かしいわねぇ」
よく喋るキキョウとは、幸いな事に流星街出身という共通の話題があった。そのせいか次第に打ち解けた空気になる。
このまま故郷の話題だけで時間が過ぎ、すんなり終わるのではないかと淡い期待を抱き始めた頃だった。
「ねえ。リネルちゃんはイルミのどこが好きなのかしら?」
「っ……え?!…」
思い切り死角から投げられた質問に、リネルは紅茶を噴き出しそうになった。
付き合っている事になっており 尚且つ結婚前提なのだから当たり前の質問と言えばそうではあるのだが。急に言われるとさすがに言葉に詰まってしまう。
ちらりと隣のイルミを目先で見れば そんな質問は聞こえていないと言いたげに、前を向いたまま紅茶を啜っている。