第73章 妊娠記録②事実報告
ハンター協会を出た後、リネルは携帯電話を片手に 懐かしい声に耳を傾けていた。
今だに気まぐれにかかってくるクロロからの電話だが いいとも悪いとも思えるタイミングであった。
聞けばやはりと言える情報提供の依頼、普段と変わらぬクロロの落ち着きある声に 少しだけ荒んだ心が癒される気がしていた。
イルミには言うに言えないが 今だにクロロの前では無性に素直になれそうな時がある。ずっと培って来た空気は変わらない。
リネルにとって、クロロには イルミにない絶対的な安定感がある。ダメ元で打診を投げてみた。
「……今日はお休みだし折角とは思ったんだけど。まさか本当に会ってくれるとは思ってなかったな」
「またまた近くにいたからな」
「こんな都内に何の用?どっかの大会社でもテロする気?」
「企業秘密に決まっているだろう」
リネルの隣に立つクロロは不敵に微笑をたたえ 目元を細くする。
落ち合う頃には時刻も夕方になっており、薄暗い都会を少しづつ彩るネオンが 高層ビル群を照らし出す。
地上から数十mはあろうかという巨大ビルの上は強い風が吹き荒れている。クロロはその風に従う前髪を片手で押さえながら 年の割りには幼く見える顔をリネルに向けた。
「仕事休みなんだろ?お前こそ何してたんだ」
「…ちょっと職場に用事があっただけ。私のことよりクロロだよ。A級首の盗賊集団がこのあたりで悪さするのを黙って見過ごすワケにはいかないんだよね、立場上」
「なら止めてみるか?見ての通り今日は1人だ」
「…やめておく」
「賢明だな」
クロロにそうは言ってみたものの 雰囲気や状況から今日この場で何かする気がないであろう点は何と無くわかっていた。
目的の為ならば事の運びは基本的に素早く静か、“盗賊”の名に相応しく華麗であるクロロのやり方は知っている。しいて仕事に結び付けるならば今日は下調べと言った所だろうか。
どう本題を切り出すかを考えた。