第73章 妊娠記録②事実報告
「辞めたいと仰るんですか、仕事」
「いえ。……どこまでのワガママが許してもらえるかはわかりませんが…辞めたくはないです」
「この世界は甘くない。使えない人間は役立たずどころかただの足手まとい。意味わかります?」
「……わかってます。今のポストを外されるのも こなせる仕事が大幅に減るのも」
「わかっていて何を相談なさりたいと?」
「……それでも私は ハンターとしてこの中枢での仕事のどこかに携わっていたいんです」
「随分勝手な人ですね」
リネルの声はどんどん小さくなる。再び パリストンの大きな溜息が耳に届いた。
「やれやれ、とんだ計画倒れですよ。リネルさんに抜けられると僕のキャリアプランが大きく狂うし 仕事の打ち出しや納期や品質、その全てに影響が出るかもしれません」
「…ええ、ですから、その。出来る範囲で出来ることを精一杯やらせてはもらえないかなと…」
「中途半端に都合のいい仕事だけをさせろ と仰りたいのですね」
「…平たく言えば…」
「二頭追うものは一頭も得ませんよ」
「……やり方次第だとは思ってます。…前会長にだってほら、息子さんがいらっしゃいましたし」
「男性と女性は訳が違います」
「……試しにでもいいんです。どうしても邪魔にしかならないならその時は、クビにしてもらっても構いません」
「いずれにせよ中途半端なことにかわりはありませんよね」
「そこを何とか…お願いします」
リネルは深く頭を下げる。パリストンの言い分は至極正しいし、自身の主張もまた真っ向から間違っているわけではいない。
どうにか折り合いが着くよう祈る思いだった。
重い沈黙の後、本日3度目になるパリストンの深い溜息が聞こえた。