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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第73章 妊娠記録②事実報告


病院を出た後、リネルはハンター協会本部にいた。
来るや否や パリストンの部屋へ一直線に向かう。毎日何度も往来する広い廊下が 今日はいやに狭く短く感じるのは言いにくい事があるからだろうか。

レオリオに叱咤激励を受けた後も しばし話をした。その中で当たり前に 仕事場に報告したんだろうかと聞かれ、 今だ何も話していない旨を告げると それを再び咎められた。ハンターとは特殊で危険を伴う仕事であるし レオリオの言い分は最もである。すぐに辞める必要はないにしろ 上への報告と仕事内容の選別は即実行すべきだと諭された。

仕事ばかり中心の人生を歩んできたリネルにとって それを第三者に強制遮断されることがどうしても悔しく、見て見ぬ振りを貫いてきた。しかしずっとそうはいられないことはわかっている。
身体に変化が見て取れる頃には どうやっても妊娠の事実は明るみになる。いずれ言わないといけない事ならば 早い方がいい、そう腹を括り 意を決してパリストンの部屋の前に立った。


「失礼します」


元来休みであるリネルの登場に パリストンは驚きもせずに笑顔を向けた。


「おや リネルさん。休日出勤なんて精が出ますね、どうしました?」

「ちょっと……お話と、ご相談が」


そういえば。自分から直接“妊娠した”と告げる相手が何故かパリストンであるのは 多少の疑問、そんな事をどこか冷静に考え 妙な緊張を和らげようとする。
促されるまま部屋にある応接セットに腰掛ける。本日は客人であるからとロイヤルミルクティーが目の前に運ばれた。


「どうぞ。最近お気に入りなんですよコレ お客様にしか出さないんですけど」

「…この時期資金繰りが大変だっていうのに また勝手にこんな高級茶葉お取り寄せして」

「これくらいの楽しみあったっていいじゃありませんか。年間で数百gしか取れない幻の逸品です」


クスクス笑うパリストンに 小さな嫌味を言う。香り立つ紅茶は匂いだけで一級品であることがわかる。ただ今日はそれに混ざる濃厚なミルクの匂いがいやに鼻をつく。折角の高級茶にたった一口だけ口をつけ、話をはじめることになった。


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