第73章 妊娠記録②事実報告
レオリオの目は曇りなくリネルを見据える。どこまでも真っ直ぐな瞳を堂々と見返せる程、自分は真っ当でもないし 生きるにあたり確固たる信念もない。逃げるように視線を左腕に向け 不毛な泣き言をいう事しか出来なかった。
「……そもそも私は妊娠なんかしたくなかった」
「気持ちいい事ヤるだけやって後は知りませんじゃ無責任過ぎだろ。出来ちまったモンは仕方ねぇし 明るく考えようぜ?」
「親になんかなりたくないし子供も欲しくない」
「オイ」
「……っ」
初めて聞くドスの効くレオリオの声にハッと顔を上げる。あまりに鋭い目つきに少しばかり怯む自分がいた。
目の前の相手は、能力者としてはリネルの相手にもならぬヒヨッコである筈。最近弱気であるが故かやたら迫力があるように見えた。
丁寧に採血を終えたレオリオは 止血用のカットバンを貼りながらリネルをキツく睨んでいた。
「2度と言うんじゃねーぞ そういう事。腹ん中で聞いてんだからよ」
「…言葉なんてまだわかんないもん」
「ニュアンスや雰囲気で伝わるもんだっつってんだよ」
「………なんで、私ばっかり………」
こんなに不安になり 悩んだり考えたりしなければならないのか。レオリオの雰囲気を汲み 出そうになる台詞を喉の奥に押しとどめた。
望んで愛され心待ちにされて生まれて来る子はもしかしたら別であるかもしれないが。
親に科せられる責任の比重は同列であるはずなのに結局のところ女だけが損である。仕事や体力を制限され、生活上の諸注意もこれからたくさん出てくるだろう。
生物学上 仕方ないのは頭では理解できる。それでも他人事同然な態度をとるイルミや 勝手に胎内にやってきた小さな命を責めずにはいられない。心で自分を必死に正当化する。
以前、腕に視線を固定していると レオリオの溜息の混ざる声がした。