第73章 妊娠記録②事実報告
今日は久方の休日。
白が映える比較的新しい病院の検査室の中、リネルは不健康なまでに白い左腕を差し出す。圧迫により止められた血液が 青い血管を隆起させる。そこに採血用のやや太い針を埋め込んでくるレオリオを睨むように見ていた。
「いいぜ すんなりいった、腕は細ぇけど太くていい血管してんな。力抜いて」
「……」
「力抜けって。痣になるぞ」
「……」
あれから。
事の発端を掘り起こした張本人であるレオリオにのみ 検査薬での結果を連絡すると、案の定リネルの身体を心配してくれ 次の休みには必ず病院に来いと勝手に予約までを取ってくれていた。
最終宣告を強いられるようで乗り気はしなかったが このまま無視し続ける訳にもいかず、しぶしぶ休日を検査通院にあてたのだった。
「おいリネルちゃん 力み過ぎだって」
「……」
体内にチクリと入る針を見ていると 、似たような形状のものを仕事道具にしている顔も思い出したくない人物の憎たらしさが頭に浮かんでくる。つい拳を握り締めてしまう。
眉間に深い皺を寄せたまま、レオリオに八つ当たりを撒き散らしていた。
「検査結果間違ってるんじゃないの?」
「んなワケあるか。うちの病院が導入してる医療機器は世界的に見ても最新のモンだぞ?」
「…結果には100%とは書いてなかった」
「99.99998%とは書いてあったろ。妊娠10週 おめでとう」
検査結果、おそらくは既に3ヶ月目に入っているというから驚きであるのに 頭だけが身体の変化についていかない。
目の前でニカッと笑うレオリオが 今の自分を苛立たせる。わざと大きな溜息をつき、リネルはますますレオリオを睨んだ。
「少しもおめでたくない」
「ちゃんと話したんだろ?子供出来るなんてめでたい事に決まってんじゃねーか」
「うちの事情は色々と特殊だし 一般論では語れない」
「うちの事情も一般論も大人の勝手な都合だろ。腹の子には関係ねぇんじゃねーの?」
「レオリオは結局他人ごとだからそんな綺麗事が言えるんだよ」
「綺麗事の何が悪ぃんだよ」