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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第72章 妊娠記録①一年後


仕事に戻れば放心ばかりしてもいられない。味の薄い清涼飲料水を片手に パリストンから回ってくる仕事を片っ端から片付てゆくしかなかった。


「リネルさん、こちらの書類も目を通してから稟議に回してもらえます?」

「はい」

「あとこちら。未確認生物の調査依頼なんですが 手すきで対応出来そうなUMAハンター数名当たって見てください」

「はい」

「あとこれ。協会主催の納涼祭のチラシなんですけどコピーして各階の掲示板に貼って回ってもらえません?」

「…それくらいはバイトの子にお願いして下さいよ…」


余計な事を考えないように一心不乱に仕事に打ち込めば皮肉にも時間は早く過ぎる。
重く沈んだ気持ちのまま帰路につくことになった。





「リネル様 おかえりなさいませ」

「ただいまです」


重厚な扉を開け 深い山を進み、屋敷の入り口を潜ればこの家の使用人が機械のようなお辞儀と共に帰りを迎えてくれる。この光景にもいつの間にかすっかり慣れた。
一直線に部屋に向かう最中、昼間の事を思い出す。病院で調べた訳ではないし確定とは言い難い、それでも無視は出来ない兆候はあるし 不安と心配で気持ちが折れそうになる。

話をしようにも当のイルミはいつ帰るのかもよくわからない。自室まで戻ってみれば 予想通り、隣室には人の気配はない。

一人の部屋で重い体をだらりとソファに預けた。空腹ともなんとも言えない感覚がムカムカして気分が悪い。その原因であろう自身の腹部にちらりとだけ目を向けてみる、触れる気にもなれず そらすように目を閉じた。


「………、」


少し眠気を感じていた折 ふと目を開いた。隣の部屋によく知る気配、だるい体を無理矢理起こし 壁面扉まで足を急がせた。ノックの後に扉を開ければ仕事終わりのイルミの姿がある。


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