第72章 妊娠記録①一年後
「980ジェニーです」
「はい…」
レオリオと別れた後、リネルは急ぎ近場の薬局へ向かい どこに陳列してあるのかもよくわからないものを探し出し それをレジに差し出した。
ドラマや映画で見たことのあるシーンをまさか自分が経験する事になるとは夢にも思っていなかった。レジを通った妊娠検査薬を中身のわからない色付きの紙袋に入れられると いけない事をしているような気持ちになってくる。
そもそも結婚しているし子供が出来ても自然な流れである。むしろ通常はめでたい事であるのに何故こんなにも不安しか心にないのか。自身へ問い掛けながら 受け取ったものを隠すように握り締め 急ぎ職場へ舞い戻った。
あえてあまり人の来ない手洗い場を選び 買ったばかりの妊娠検査薬を使う。こんなに緊張するのはいつぶりだろうかと 説明書に目を通しながら軽い深呼吸をした。
“尿をかけて1分後…陽性ならば青の縦線、陰性ならば無反応…”
たった1分で妊娠反応の有無がわかるのだから便利な世の中だと思う。反面、その1分が人生を左右する判決を言い渡される待ち時間のような気もしてくる。
しかし待ち時間は1分も必要なかった。瞬間的にはっきり浮かび上がった青線に視線が吸い寄せられた。
「………嘘………、」
リネルは手先から血の気が引く感覚を感じ、ドクンドクンと高鳴る自身の心臓の音を聞いた。