第72章 妊娠記録①一年後
実際の所、妊娠するに 思い当たる事がない訳ではなかった。
イルミとは相変わらず 生活スケジュールの合わない間柄ではあるが、婚姻の元 同じ家で暮らしているし以前程他人行儀というわけではない。ただそこに不屈の愛があるかと問われれば二つ返事は出来ないのが正直な所。
何せ育ちも考え方も価値観もまるで違う人間同士、定期的には意見衝突し 小さな事から大きな事まで喧嘩を繰り返してはいた。ただ結婚生活も1年も過ぎればある程度相手の意見や考えもわかってはくる、目を瞑れる範囲の事柄であれば それには触れず適度な距離を保つ事で丸く収まる事も増えてはいた。
キルアやミルキは「最近喧嘩が減った」と言いはするが、実際の所は無干渉を貫く姿勢の元訪れた平和とも言えた。
とは言え喧嘩が全くなくなった訳ではなく、久々に顔を合わせ 仲直りまで漕ぎ着ければ そのまま夜を共にするのも自然な流れ。
つい避妊を蔑ろにした覚えはある。
ただでさえ顔を合わせる機会が少なく、愛だ恋だを語りたい性格でもない。元よりイルミとはビジネス上の付き合いであったし いざ夫婦となっても一般的な意味での「夫婦」に比べると リネルにはその感覚が少し薄いのが事実であった。
黙り込むリネルの隣で レオリオは 、もし本当に妊娠していたならばと 注意事項だとを話し出す。アルコールや身体的負担の大きい仕事の禁止、その他にも細かな事を教えてくれるが 言葉がするする耳から抜けていくようだった。
「リネルちゃん いいか?でもまず一番にする事は家族への報告!わかるな?」
「…うん…」
「大丈夫だって。男なら子供出来たら嬉しいモンだろ普通」
「…普通とは、違うと言うか…」
「…墓穴掘らすなよ」
頭をガシガシ掻くレオリオを見ながら イルミの顔を頭に浮かべる。そんな報告をしたらさすがにあの無表情を崩すのだろうかと想像してみた。