第72章 妊娠記録①一年後
ハンター協会本部にて。パリストンの席の側でリネルはぼーっとした顔をしていた。
「リネルさん、今度開かれる役員会の事なんですけどね」
「………」
「リネルさん、聞いてます?」
「…あ、はい、すみません、ちゃんと聞いてます…」
リネルは目の前で首を傾げながら顔を覗き込んでくるパリストンに作り笑顔を返した。
ここ数日体調が悪い。日頃から鍛えている能力者であるし 体調不良程度で動けなくなる事はないのだが 決して気分のいいものではない。
パリストンは眉を下げると 形式的にリネルの体調について心配そうな声で問う。リネルは 大丈夫だと笑顔で答える。
しかし実際の所は病院にも行っていない。原因不明で体調を崩す事など今まで全くと言っていい程になかったし、一体どうしたのだろうかと ここ数日の小さな悩みの種であった。
しいて思い当たる事といえば、結婚して一年強が経過し ゾルディック家での耐性付けの毒を増やされた事、ハンター協会で半ば接待のような飲み会が連日続いている事くらいであった。
「……少しだけ休憩してきてもいいですか?」
「ええ、どうぞ。あ、13時までには戻って下さいね、会議あるので」
「はい、わかってます」
時計を見ればそろそろ昼時、リネルはパリストンに軽く頭を下げてからハンター協会を出た。
「はあぁ……」
溜息をつきながらハンター協会本部近くの小さな公園のベンチに腰掛ける。普段であればどこかで昼食でも取る所だが 今の体調だとガヤガヤした人混みはどうにも好まないし、食欲もあまりなかった。
来週には次の休みがある、きちんと病院へ行くべきかと肩を落としていると急に後ろから声をかけられた。
「よ、何サボってんだよ」
「…レオリオ?!」
振り返るとレオリオの姿がある。医者らしく白昼に眩しい真っ白い白衣をワイシャツの上に羽織っているのに 袖をずいぶん無造作に捲り上げている姿はレオリオらしく見える。
レオリオの勤める病院はハンター協会本部に近い。故にこうしてばったり会うこともそこまで珍しい事ではない、時間が合えば昼食やお茶をする事もある。
然程驚きもせずレオリオに笑顔を向けると、レオリオは「薬局店に軽い用がある為あまり時間はない」などと言いつつもリネルの隣に腰掛けてきた。