第70章 ゲシュタルト崩壊/イルミ流血あり
「……出血はだいぶ落ち着いてきてるし、ガーゼ新しくして押さえたからそろそろ止まるんじゃないかな」
白いガーゼの上に再び消毒を施し、大判の布を何枚か被せる。そこを上からテープで止めた。結局一度も痛がる遍歴を見せなかったイルミは、静かに瞳を伏せごく小さな声を出す。
「もう少し寝ようかな」
「…あ、うん…」
「眠くなってきた」
血液が大量に失われている身体は ひどく弱っており休息を欲しているのは明白だ。
汚れたシーツも服も、出来るなら替えてあげたいとも思うが優先順位は違うだろう。ここは持てるだけの愛情を込めて嫁の立場から「おやすみなさい」と言ってあげるところだ。
「………っ」
そのたった一言がどうしても口から出なかった。
瞼を完全に落としてしまうイルミは、ドライアイスに包まれ死化粧を施された 冷たく綺麗なだけの死人みたいだった。
「……どうして……っ」
イルミを睨んだ。
これはリネルの悪い癖だ。今のイルミには反論する力すら残っていないとわかっているのに、言い出すと止まらなくなってしまう。
「……どうしてイルミは生きようとしないの?!痛いなら泣いて叫んで…痛がったらいいじゃん!」
とても重そうに、イルミは微かに目を開く。
「カッコつけないでよ!死にそうになったんだよ?!どうして怖くないの?なんでそれを受け入れてるの?人間なら人間らしく…足掻いてもがいて必死になってよ!みっともなくたっていいじゃん!!ちゃんとがむしゃらに…死に物狂いで生きようとしてよ!!」