第70章 ゲシュタルト崩壊/イルミ流血あり
今回のことは運が良かっただけで。
いつかきっと イルミは己の意思で抵抗もなく両手を広げ、喜んで死を受け入れる。そんな未来が見えた気がした。
リネルには断りもなく、リネルには理解出来ない理由で、自分勝手な死を辿るのではないか。そう思えてならなかった。
言うだけ言い終えたところで、やはり返答はない。
リネルは大きく振り返りイルミの前を去ろうとした。
「リネル」
「………………」
「もしもだけど」
「………………」
「オレが死んだらリネルはどうする?」
「………………」
「ウチを出て行く?」
淡々と投げられた質問はあまりにも的外れに思える。
「………そんなの、決まってるでしょ……っ」
もしもイルミが死んでしまったら。
そんなの一つに決まっている。
言わなきゃわからないのかと思うと平行線ばかりを辿る感情が高ぶり 制御が効かなくなる。
「…………っもしもイルミが死んじゃったら…………死ぬほど悲しいに決まってるでしょっ!!!」
そう言い捨てた。
これ以上イルミの側にいると報われない愛の言葉が溢れてしまいそうで、自身の部屋に逃げ戻った。
壁面扉を背にずるずる身体を沈め、小さくなり肩を震わせた。
耳のいいイルミにはリネルが今どうしているかがわかっているだろう。そして、リネルが何故そうしているかも本当はわかっている筈だ。
わかっていても本質的な所で理解が出来ていないだけ。
もしも今のイルミが怪我人でないならば、あの腕の中に飛び込み 身体を寄せ合い囁き合い、足りない部分を埋める方法もあったとは思う。今はそれすら叶わないが、きっとこれで良かったのだ。視界が歪んで見えるのは消毒液が目に染みたせい、そう自分に言い聞かせた。
fin