第70章 ゲシュタルト崩壊/イルミ流血あり
腰から腹部まで 何重にも回された包帯の結び目はどこなのか、視線で探したが切ってしまう方が早いだろうか。箱の中から大きめのハサミを取り出しザキンと豪快に刃を入れてゆく。
患部の周りは古い血が乾き固まっている。包帯と詰められたガーゼ、皮膚が固く張り付いていた。脱脂綿に消毒液を染み込ませそれを使いながらなるべく負担のないよう、汚れた包帯をゆっくり剥がしてゆく。
「………よく生きてたね」
「心臓だったら即死だったかな」
昨日は夜で暗かったし何より気持ちも動揺していたので傷の規模はわからなかった。こうしてまじまじ見てみると目を細めずにはいられなかった。
「……痛そう」
一命を取り留めるために行われた措置はあまりにも的確だった。そしてそれが怖かった。
イルミの傷は臓器にまで達してしまう程の深さがある。噴き出す鮮血を止めるために損傷した血管を急ぎ縫合し、これでもかとガーゼを詰め込み上からきつく圧迫をかける。
これ以上の応急処置はなかっただろうが、例えば、昨晩のリネルに同じ事を冷静に実施は出来たのだろうか。
イルミの腹の中に手を突っ込み、中身をいじり、血を止め、穴を塞ぐことが的確に出来たのか。
「……まだ血がちゃんと止まってないみたいだからガーゼ替えるね」
「うん」
救護箱へ視線を逃し、答えをごくりと飲み込んだ。真新しいガーゼを大量に用意し、手術用の薄いゴム手袋をはめる。消毒液をまわした後 ピンセットを指先に摘んだ。
「ちょっと痛いかもしれないけど」
一言断りを入れイルミの顔色を伺うも 真っ直ぐ天井を向いたまま。瞳はどこまでも虚ろで、まばたきも精気もない。
腹の中で真っ赤に水分を吸っているガーゼの隅を摘む。そっと引っ張ってみるがそう簡単には抜けそうもなかった。
一体どれだけの圧力をかけられ身体の中に躊躇いなく詰め込まれているのか。想像するとまた怖くなる。うまく力の入らないピンセットの先端が、チリチリ弾けそうになる。
「……ダメだ 取れない。直接抜くね」
「うん」