第70章 ゲシュタルト崩壊/イルミ流血あり
あれからは中々寝付けなかったが側に控えた所で出来る事は何もない。リネル自身も疲れていたのは事実であり、何時間か粘った後で身体の方が先に眠りに落ちてしまったようだ。
「………様、リネル様 もうご心配はいりませんのでご自身のお部屋にてお休み下さい」
使用人にそう促された記憶はなんとか残っていた。気がつけば自分のベッドの中で目を覚ます事になる。
布団から飛び起き鏡も見ずにイルミの部屋に直行した。
時は既に昼を大きく過ぎているし、部屋の中は傾いてきた陽の光に溢れていた。
こうして見れば普段と何も変わらないのに、ただ一点、昨日イルミが倒れていた場所だけは生々しくも黒い血の色をはっきり残したままだった。
「……………………今何時?」
リネルの気配を察したのかベッドに仰向けで横たわるイルミは大きな瞳だけを重たそうに開いた。
リネルはイルミの顔を覗き込む、血の気のない顔はイルミの血色をますます悪く見せ、頬は青白くげっそり痩けてすら見える。リネルはベッドサイドに立ち尽くしイルミの部屋の時計に目を向けた。
「16時半」
「オレそんなに寝てた?」
「ちなみにあれから5日経ってる」
「それはウソだろ さすがに」
「うん。ウソ」
少しだけ悪態がつける自分にも、きちんと会話を返してくれるイルミにも心底ほっとした。
腹の傷は深く大きいようで、捲られた服の下は包帯でぐるぐる巻きだった。まだきちんと血が止まっていないのか、包帯に血が滲んでいるしシーツも赤く汚れている。
リネルは足元へ目を向ける。そこには昨晩自身が持ち込んだ救護箱が忘れ去られたようにぽつんと置き去りにされていた。
その隣に膝をついてみる。
「包帯替えようか」
昨日ように使用人を呼べとの声はなかった。