第69章 休日デート/ほのぼの
店内にて。
イルミはリネルが指定した商品を探していた。
陳列棚に目を滑らせながら「限定品で人気の物!」とメモに注意書きがついている目的のぬいぐるみを探し出す。嘘ではないようで最後のひとつ、それを素早く手に取った。
「あ、欲しかったのに。最後の一つだったんだ」
ふと耳に届いた声に目線を落とし、イルミは微かに眉を上げた。
そこにいたのは見覚えのある眼鏡をかけた女。過去にヒソカの依頼で幻影旅団のアジトに入った事があるが、その時にいたメンバーの1人だとすぐに気付いた。
「今日は盗らないし殺さない約束になってるしな、どうしよう…」
極めて小声で物騒な事を言っているが、丸聞こえだ。大きな瞳を残念そうにぬいぐるみに向けている。旅団メンバーが何故こんな所にいるのか、疑問はあるが とりあえずその女に問いかけた。
「これ欲しいの?」
「うん」
盗らないし殺さない、今日はこちらもそう願いたいと思う。揉めたりすれば人の多い公共の場で騒ぎを起こす事を嫌がるリネルがうるさいだろう。
「あげる」
イルミはぬいぐるみをその子に手渡すとレジへ向かった。今日の土産は親の指令ではないし、それよりも幻影旅団がいるとなるとにかく面倒ごとは勘弁願いたい。
「7980ジェニーでございます」
クレジットカードを差し出すと、それを遮るように先程のぬいぐるみが視界に入る。振り返ればさっきの女が当たり前のように立っていた。
「なに?」
「今お金持ってないの。会計が終わってから頂戴」
潔いまでのおねだりが、なんとまあ図々しい。そして そのぬいぐるみはその子に渡した物、あとはそれを盗ろうがどうしようがイルミ自身の知った事ではない。首を傾げながら言い放つ。
「本業だろ。盗れば?」
「え、なんで知ってるの?そういえばあなた、どこかで見たような……う〜ん……」
クリスフォードにて ものの数分ではあるが同じ部屋に居合わせた。
ただそれを説明してやる義理もないし、無感情の目でその女を見下ろしていると、レジ店員の困った声が聞こえてくる。
「あの…こちらもご一緒ですか…?」
「一緒で」
そう言いレジを通した後、そのぬいぐるみを再び手渡し、イルミは店を後にした。