第8章 手合せ
訓練用、言われた部屋につく。
シルバは広い空間の真ん中あたりに足を進め、リネルを見据えた。
「では始めよう。本気で来い、遠慮はいらん」
「わかりました…!」
リネルはシルバの前に移動する、ようやく正面から堂々とそのさまを見た。
この手合せに意味はあるのか。
そう思える程、実力の差は こうして向かい合っているだけで歴然と感じられる。
だが、こうなってしまった以上 持てる力を本気でぶつけ、少しでも自分の実力を見せつけてやろうと思う。
リネルとてハンターだ。自分の実力にはそれなりのプライドもある。
シルバのような明らかに格闘派なタイプは力がある分動きは遅めの場合が多い、ましてこの閉鎖された空間なら もしかしたらリネルにも好機を掴む糸口があるかもしれない。
今までの戦闘経験を頭に浮かべてみる。
「では 行くぞ」
「…あ、ちょっと待って下さい!……」
リネルは足元のパンプスとスーツのジャケットを脱ぐ。きょろきょろ置き場を探していると 横から静かに片手を差し出された。
小声でイルミに礼を述べ 服を渡し、シャツの袖を肘まで捲り上げた。
「いいか?……はじめよう。」
「はい!…………っ」
言うなり、目を見張る間もなかった。
リネルの間合いに距離を詰めるシルバ、咄嗟に身体を後ろに引いた。
直接触れてはいないのにビリビリと感じる拳の圧には血の気が引く思いだったが、頭で考えている余裕もなくシルバは次の攻撃を仕掛けてくる。リネルは再び身体を捻り、なんとか攻撃をかわす。
「……っ、!!」
崩れた体制からでは次の攻撃はよけきれない。
打撃を覚悟し目を細めた所でシルバはリネルから距離をとってしまう。
「反応は悪くない。」
「…くっ…!…」
実力に差があり過ぎる。
そして明らかに試されているのがわかり、リネルは悔しさに下唇を噛んだ。
これが本番の対峙であれば数秒ともたずに殺られてしまうだろう。
シルバは再び、目にも追えないスピードでリネルの前に入り込んでくる。
リネルには致命傷を避けるための攻撃回避を続ける事しか出来なかった。
「リネル 避けてばかりじゃ勝てないよ」
隅からイルミの声がするが 振り返る余裕もない。リネルは必死に攻撃を避け続けていた。