第66章 繋ぐ
急に部屋に響くのはノック音だった。
それを受けイルミが瞳を揺らす。気配で来訪者を察知し、リネルに小声で言った。
「親父だ」
「えっなんで?」
「さぁ?そんな顔してると考えてる事バレバレだよ」
イルミはあっさりリネルを引き離す素早く歩みを進め 部屋のドアを開ける。そこにはシルバの姿があった。
リネルの部屋にイルミがいたことに驚きはしないものの、シルバは形式的な第一声を告げた。
「邪魔したか?」
「別に。……リネルに用?」
遮っていた視界を解放するようイルミがドアの前から少し移動すると リネルの目にシルバの姿がはっきり入った。
シルバがリネルの部屋まで足を運ぶ事は極めて珍しく リネルの表情は頬に微かな赤みを残し すっかり普段通りに戻っていた。リネルはすぐにシルバの前に駆け寄った。
「なんでしょうか…?」
「お前にひとつ頼みたい事があってな。依頼と言ってもいいかもしれない」
シルバに依頼をもらうのは初めてで あり、リネルはいつになく真剣な顔でシルバの話に耳を傾けた。
聞けば 次のゾルディック家への仕事の件。
ある複数名に及ぶ組織がターゲットであるが、その内情や規模 潜伏先等の情報をなるべく詳しく探って欲しいと言うものだった。
「こちらでもやっているんだがなかなか確度の高い情報が得られなくてな。仕事の確実性のためにもお前の所でも出来る限りの事を調べてもらいたい」
「そうですか…わかりました。やってみます」
「詳細はミルキに聞いてくれ」
シルバは要件を言い終えると 後ろで無表情のまましっかり内容を聞いているイルミに目を向けた。
「お前にもこの仕事手伝ってもらうぞ」
「言うと思った。」
「長期の仕事になるかもしれんが」
「組織単位ならそうだろうね。まさか揃って同じ場所にいるはずないし」
長期 との言葉を聞くと リネルが一瞬眉を上げた。
シルバがそれを見逃すはずもなく 目線をリネルに移した。
少し前まで この結婚に愛などないと平気で公言していたのに リネルが小さな動揺を見せる様、そして仕事上がりのイルミがリネルの元にいた事が シルバの目には微笑ましく映っていた。