第66章 繋ぐ
しばらくすると 背中に人の気配を感じる。
リネルは口元を曲げながら 目線は前に向けたままに声を掛けた。
「イルミ おかえり」
「ただいま。何してるの?」
「ひとり酒」
「自分の写真を肴にって、ナルシストだね」
「…なんでそうなるかな…」
リネルは少し赤みの増した顔でソファから振り返ると、この状況を見て何故その見解なのかと 呆れた声を出した。何も自分の顔だけを見て悦に入っていた訳ではないと言うのに。
「……イルミがいつ帰るのかなーって思ってた」
少しだけトロンとした目付きで見てくるリネルの浅い傷が目立つ顔を イルミもじっと見返した。
「その顔、どうしたの」
「ゼノおじいちゃんと稽古してた。私のこと孫みたいなんだって」
「じいちゃんと?それでシゴかれてたんだ」
「イルミのことも可愛いって心配してたよ。良かったね」
「可愛いのか心配してたのかどっちなのソレ」
リネルは嬉しそうな笑顔を見せる。 空いているグラスに氷と酒を注ぎ それをイルミに差し出しながら、自分の隣に手招きした。
「今日はもう業務終了?」
「うん」
「お疲れ様。ね、一緒に呑もうよ」
「いいけど」
「乾杯しよ」
「何に?」
「じゃあ……ゾルディック家に」
「なんでまた」
「なんとなく」
イルミは ふわりと微笑むリネルの隣に腰を下ろす。2人は静かに飲み始めた。琥珀色の酒を少し口に含んでから イルミはグラスを揺らしてみせた。
「ふーん、随分いい酒飲んでるね」
「うん、もらったのおじいちゃんに。稽古のご褒美だって」
「リネルに甘いね。そんなのオレら兄弟誰も貰った事ないのに。それに稽古って言っても 傷浅いしだいぶ手加減したんじゃないの」
「本気出されたら私今ここにいないよー」
厳しい事も言われたが、アドバイスや今後の課題もたくさんもらった事を思い出し、リネルは嬉しそうにロックグラスに口をつけた。