第65章 事実
「どれ、久々に稽古でもつけてやるか」
「え、これからですか?!」
「そうじゃ。文句あるか?」
「いえ……」
ゼノは軽々とその場を立ち上がった。
「孫も皆 年寄りの手を離れると嬉しい反面寂しいもんでな」
「なるほど…」
「ワシがくたばる前にはひ孫の顔でも見せて欲しいもんじゃ」
「え……っ」
リネルはゼノに苦笑いを見せた。
「そんなの確証もなければいつになるかもわかりませんし……ずっとお元気で現役でいてもらわないと困ります」
「なかなか言うわい。言っておくが今日は手加減せんぞ?」
「えぇー?!それも困ります!」
「なに、遠慮はいらんて」
「遠慮してません!」
ニヤリと笑った後 スタスタと稽古部屋の方へ足を進めるゼノに リネルは気後れする思いで 着いて行った。