第64章 翌日
数十分後。
リネルはドアが壊れるくらい勢いよく自室を出た。
あれからしばしイルミに付き合わされた後、流れ作業のように数分で支度をし 遅刻覚悟で職場へ向かった。
今日は朝一に次期ハンター試験の内容確認会議が控えており、一筋縄ではいかないその会議に遅刻など言語道断。
ましてや遅刻の理由が理由なので 自分を許せぬような面持ちで口元を固く結び 廊下を走っていた。
「リネル!どーした?」
「…キルア!」
脇目も振らず走るリネルとすれ違いざまにキルアが声を掛けると、リネルは 遅刻する と焦り顔で早口で言ってのけた。またイルミと何やら揉めたのではと心配したキルアは少しホッとした顔を見せた。
「何だよ、焦ってるから何かあったのかと思っただろ」
「仕事遅刻しそうでヤバいんだって!!今日はほんとに遅刻出来ないの!」
「ふーん、大変だな。……………あ、そうだ、ならいい事思い付いた」
「何?!私この時間すら惜しいんだけどっ…」
「で。キルア様はアタクシにこの子を職場まで送れとご命令なさるおつもりですか」
「そ、頼むよツボネ。リネル困ってんし」
「……」
リネルは時計を気にしつつも 目の前の威圧的な老婆を小さくなって見上げていた。ツボネの存在や執事間での地位はある程度把握はしているがあまり話した事もなく 何よりどう見てもキルアの命令を歓迎している風には見えない。
ツボネは呆れた様子でリネルに言った。
「キルア様の命令なら仕方ありませんね、リネル様、お乗り下さい」
「えっ……?!」
「貴女様のオーラを使って走ります、多少の疲労はご覚悟を」
目の前に現れるバイクを驚きの顔で見ているとキルアが得意げに笑顔を見せた。
「これすんげー早いから、多分余裕だろ?」
「え?そうなの?!」
「しっかり捕まっていないと振り落とされますよ」
「………ぇ」
気づく頃には走り出し、耳には風を着る音が響いた。
「ありがとキルア」
リネルのお礼の言葉は一瞬で上がるスピードにかき消されていた。