第63章 翻弄
また何か言いたげに振り返るリネルの身体をそのまま反転させ仰向けにさせる。そろそろこちらにだけ集中させたい所である。
それを伝えるべく一瞬言葉を探す、しかし比喩や隠喩は仕事で必要性がある時にしか使わないし 元よりそういう言葉にはあまり必要性を感じない。ストレートに言葉を投げる。
「携帯終わり」
「…え」
「セックスしようか」
「………、………ん」
リネルは少し間を置いた後 小さく頷き返事を返す。
了承しているのに 何故か恥じらうその顔を覗き込む。
リネルの育ちにある程度の苦労が予想出来る事や 仕事を淡々とこなす様子も知っている。そのせいか年齢の割には雰囲気や仕草 表情が大人びているとは思う。
しかしこういう風に照れたような顔を見せる時は まだ少し幼さの残るリネルの顔をより幼く見せる。
その変化を観察するようにじっと見下ろしていると 目線を少しそらしたり、合わせてきたりを繰り返す。
実際の所 身体を合わせるのがそこまで久しぶりという訳でもない。
しかし 不思議と、このようにリネルを見下ろすのが随分久々だと感じられていた。
◆◆
リネルはベッドサイドにあるスタンドライトが淡く照らし出すイルミのシルエットを下から見上げていた。
変な緊張感はいつの間にかなくなってはいた。
顔の横に両肘をつかれ 確かめるようにじっと見下ろされると、その視線が懐かしいような愛おしいような感覚を覚え 気恥ずかしさからついつい目を泳がせる。
ふいに顔を寄せられると流れるように落ちてくる黒髪にそっと両手を伸ばし、それをイルミの耳に掛けながら 小さな声を出した。
「…さっきからなに見てるの?」
「こうしてリネルを見るの久しぶりだなと思って」
「え」
「リネルに触るのも久しぶりな気がする」
ふわりと顔を寄せられ口のすぐ横あたりに唇を落とされた。
甘さのある行為は意外でもあるが嬉しいのが事実だ。そのまま頬や耳を優しく辿るように、滑やかな唇を移動される。それをねだるようにリネルは甘い声でイルミの名前を呼んだ。
「イルミ……」
名前を呼ばれたことに目線が噛み合った。
「キス……して……」
イルミはリネルにそっと唇を重ねた。