第63章 翻弄
心情を態度で表すべく、片膝をベッドにつき その上に身体を預けると 両手でリネルの身体を囲い うつ伏せになったままのリネルに自身の身体を被せる。
伝わる柔らかい身体の感触に誘われるように、耳元に顔を寄せながら 手元の携帯電話を取り上げる。
するとリネルは何か言いたげに振り返るが、それについては何も言わずに 違う言葉を口にした。
「…石鹸の匂いがする」
「風呂上がりは普通じゃないの?」
そういうリネルからもシャンプーのほのかないい香りが漂ってはくる。少し残念そうなリネルの声が耳に届く。
「イルミの匂いがわからない」
「鼻がいいね。てゆーかオレ匂いなんてある?」
疑問をそのまま返すと 少し得意げな笑顔を見せ、すごく近くにいるとわかる程度に微かなものだと説明をする。
見た目よりも野性味がある女だとは思っていたがこんな事を言われたのは初めてであった。
「大丈夫 仕事には支障出ないよ、多分私にしかわからないし」
「そう」
とかく仕事絡みというか こういう事に関しては頭の回転が速い。一瞬頭で考えた疑問の答えをすぐ口にする様子に、元よりはビジネスパートナーとして付き合っていた事を思い出す。
リネルは顔を前に戻すと 小さな声で言った。
「…結構好きなんだけどな、イルミの匂い。残念」
「どんな匂い?」
「…落ち着く匂い」
普段素直じゃない分、時折見せる反応や言動が妙に可愛らしく感じられる時がある。
そんな事を考えていると 枕元に無造作に置いたリネルの携帯がバイブレーション音と共に薄暗い部屋に不似合いな発色を出す。
「あ、返信かな?」
躊躇なくそれに肘を伸ばすリネルの華奢な手首を抑えるように、イルミは自身の手のひらを重ねた。