第63章 翻弄
イルミは入浴を終え バスローブにも似た簡易的な寝衣の紐を腰元で止める。
そして長い髪にドライヤーの熱い風をあてながら 次の仕事の事を考えていた。明日もとい本日の夜にはまた仕事が入っている。
期間にすればおそらく数日で済むし、難易度でいってもさほど高い仕事でもない。
その割りには依頼人の羽振りがよく比較的 高報酬なのが魅力で、先程リネルの要求をすんなり飲む気になったのには実はこの理由があった。
サラサラと流れるくらいまで水分が飛んだ前髪を軽くかきあげ ドライヤーを置く。
部屋へ向かう途中、ふとリネルはどんな様子で自分を待っているかを想像した。
気持ちを告げた時のように緊張しているのか、帰宅時のように遅いと拗ねた顔をしているのか、自分と同じように仕事の事でも考えているのか。
これから行う事情を考えれば前者である方が可愛げがあろうとは思うが、後者であってもそれはそれで征服欲も出る。
そんな事を考えながら 実際にベッドが視界に入る位置まで来る。
するとリネルは 広いベッドの真ん中で スラリとした身体をうつ伏せに預け、薄暗い部屋でやたらと眩しく見える携帯電話の画面を見ながら それを両手でいじっていた。
時折 片脚の膝を折り曲げながら それをゆっくり上下させており、少し長めのワンピースのような寝衣からは リネルの脚線美が見え隠れしていた。
想像のどれでもない 退屈だと言いたげなその姿に 少しの不快感を覚え、疑問をそのまま口にした。
「何してるの?」
「メール」
「誰と」
頭で考えるより早く口先で答えを解いたざす。
リネルはうつ伏せのまま イルミを振り返ると、悪びれなくその答えを口にした。
「ゴン」
「は?なんで」
また随分と予想外の人物の名前に理由を聞けば、先日会った時に 喧嘩した事を話したら酷く心配してくれたので、仲直りの報告だと笑顔で答える。
リネルの仕事柄知り合いが多いのは頷る。そして相手は弟と同年齢のどちらかといえば 無害そうな少年、感情を乱す対象にもならないが このような状況では それも面白いものではない。