第63章 翻弄
あれから
ベッドサイドにあるスタンドライトが灯る薄暗い部屋の中。
リネルは1人 イルミの部屋のベッドの上で膝を抱え 小さくなっていた。
話に折り合いがつき、仲直りも気持ちの疎通も無事に終了。その後 流れで身体の繋がりを予想しないでもなかった。
しかしイルミは「仕事後だし入浴くらい」との理由であっさりリネルから離れた。そして当然のように「部屋で待ってて」とだけ言い残し 壁面扉から姿を消したのだった。
元来きちんとしているし綺麗好き、そしてイルミの仕事柄その言い分は正しいと思うものの、このように区切られてしまうと 自分でも驚く程にそわそわし とにかく落ち着かず変に緊張してしまっていた。
「今更だよね…」
膝に頭を埋め 小さな声で呟いてみる。
しんと静かな部屋に バスルームから聞こえるシャワーの水音がいやにリアルに耳に響き、少し顔を上げると目線だけをそちらに向けた。今この状況に、どうしてもこれからの展開を予想してしまう。
「何緊張してんの、私」
好きだとはっきり告白したのは向こうにも関わらず、おそらくは少しの緊張や動揺もせずに 普段と変わらぬポーカーフェースのまま 事を進めるのだろうと想像すると、自分ばかりが意識をしている状況に 悔しい思いが込み上げた。
それを悟られぬよう こちらも平常心を装おったとしても、きっとあっさり見破られてしまうだろう。
考えれば考えるほどに 緊張が高まる中、脳内で無理やりに数日前のことを思い出してみる。
仕事に同行した日、記憶をなくした間、喧嘩をした日、家出をした日。
「あ、そうだ」
ふと脳裏をよぎった用件に、急ぎ自身の部屋に携帯電話を取りに向かった。