第7章 訪問
翌日。
リネルは早朝からゾルディック家へ出向くべく準備、もとい いよいよの腹くくりを進めていた。
今日はイルミの両親に会うだけと聞かされてはいるが、相手が相手だけに今のリネルには緊張感しかなかった。
相手は殺しのプロ、息子の結婚相手として不可と判断された場合 最悪はそのまま殺されてしまうのではないかと不安に思ってしまう。
成り行きで結婚することになり、さらに成り行きで殺されるなど笑い話にもならないではないか。
詳細も一切話さずに勝手に予定をぶち込んでくるイルミにもふつふつと怒りが湧いてくる。
身支度をしながらリネルは鏡に映る自身の顔を見る。
「………もう少し幸せそうな顔出来ないの?私……」
眉は下がり口元も一文字、そこには少しも婚約の身に浮かれる様子はなかった。
◆
イルミとの待ち合わせはククルーマウンテンの入り口。
直接来たことはないが、ゾルディックは暗殺業において名門中の名門であるので ククルーマウンテンの門構えはインターネットでも何度か見た事はあった。
しかし実際に山の前に立ってみるとその迫力は写真とは比べものにならない。
背筋を撫でられるような寒々しい雰囲気がある。リネルはますます不安を大きくする。
「来たね。リネル」
「イルミ…!…あのさぁ…」
声の方に顔を向けた。
本日のイルミは実家にいるからなのか 普段ほど徹底した気配への気遣いがなく、初めて見る私服姿は随分とラフな印象だ。
勝手に予定を組んでおきながら謝罪ひとつなく、表情だけは普段と変わらぬままだった。
「何 その格好」
「え…」
何を着たらいいのかもわからず、どういう場でも無難であろうタイトなスーツを選んでみたのだが。改めて指摘をされると これでは婚前挨拶というよりはまるで面接に行く格好だ。
巻き髪と花柄のワンピースにすべきだったのだろうか。
リネルは言い訳のように瞳を細くする。