第62章 告白
カルトが去った後、イルミはリネルの部屋に足を進めてくる。そしてリネルに目を向けて言った。
「何を話してたの?」
「別に 大したことは何も」
リネルはあからさまにイルミから目線をそらせている。素直になれない様は相変わらずだった。無意識にも口調が冷ややかになってしまう。
「遅かったね」
「報告とか色々あったし。え、まさか本当に寂しかったの?」
「言ってないってば!今日中に帰るって言ったくせに帰らないからちょっと愚痴ってただけ」
「オレ帰ると断言はしなかったと思うけど」
「……同じだもん!」
リネルは不機嫌さを崩さぬまま、下を向きつつイルミの前まで進む。そしてゆっくり、伺うように顔を上げた。
何故だろうか、少し前まで恐怖の対象でしかなかった黒い瞳に不思議と安心感みたいなものを覚える。
「とりあえず、その、おかえりなさい」
「うん。ただいま」
「……イルミと話さなきゃいけないことは色々あると思うんだけど……」
「そうだね」
イルミが感情にブレない所は相変わらずだ。リネルだけが一人、この瞬間を待ち焦がれていたと思うと悔しやもやるせなさもある。
リネルは再び、目線を足元に落とした。
「あのさ」
「なに?」
「遅刻したお詫び、してよ」
「だから遅刻じゃないよ」
「いいから!」
「じゃあ内容に応じて」
リネルは小さな声を出す。
「……ひとつ、お願い聞いて」
「一方的なお願いは聞けないだろ」
「……簡単な事だから」
「ならいいけど、なに?」
イルミの表情の伺う勇気はなかったが。
歩みを進めイルミに近づくと、そのまま自身の額をイルミの腕にそっとくっつけた。
「………何も言わずにちょっとだけこうさせて」
「わかった」
この動作だけで、イルミに何がどれだけ伝わっているのかはわからなかったが。イルミの掌が一度だけ、後頭部を撫でてくれる感触を得た。
欲しかったのはきっとそういうものだ。リネルは恐る恐る視線を上げる、目が合うとイルミは少し首を傾げてくる。
「何も言ってないけど?」
「………遅いよ」
「待ってたの?」
「………待ってたよ」
リネルは顔を隠すように再び額を押し付けた。